バロットが殻を破る姿にグッときた!『マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust』レビュー
完読しました!始終期待を裏切らないおもしろさでした。
マルドゥック・スクランブル The 3rd Exhaust 〔完全版〕 (ハヤカワ文庫JA)
- 作者: 冲方丁
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/10/08
- メディア: 文庫
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いつもの如くネタバレ防止で折りたたみます。
カジノの戦いも最高潮。前巻で戦ったベル・ウィングも見守る中、バロットはドクターの手もウフコックの手も借りずに自身の力で勝負する。そしてボイルドとの正真正銘の「対峙」。対する敵としてしか見ていなかったボイルドの内側をこじあける。
本巻までに徐々に殻を破ってきたバロットの孵化が見て取れました。相変わらず展開の速度が適度で、かついい塩梅に危機感もあり、読ませます。
バロットが恐れながらも一人で立ち上がる姿にぐっときました。
で、お約束ではあるものの、悪役(ここではボイルド)の行動原理が解明された場面、これまで闘ってきた敵が応援者として再登場する場面は、それまで読んできた者としてはもう気持ちを掴まれてしまいますよね。。。
最後は含みをもって、後日談もなく終わりますが、スッキリとしてかつ未来に光明がある終わり方で、とても気持ちよく読み終えることができました。おもしろかった!
で最終巻だったので、マルドゥック・スクランブルシリーズを俯瞰しての所感を。
- 舞台はマルドゥック市の中のみではあるのですが、場面の描写にひとさじの近未来要素(眠っていたベッドが床擦れを防ぐために揺れていた、であるとか)を加えることで、それが積み重なり、世界観を醸していた点がよかった。SFの場合場面描写にページをさいてしまい、退屈になってしまうことが多いのですが、そういうことがありませんでした。
- キャラが濃い。敵のビジュアルも趣向も濃かったので、登場人物の判別がし易く、展開にも興味を持てました。
- 感情描写が繊細。割り切れない複雑な心情も、行動や言葉で表現されていたのが良かったです。人ってそんな単純なものではないですしね。
- 英語を使った言葉遊びが、作品にテンポと一貫性を加えていて、文を軽やかにしていた。最近読んだ物語でもこういった試みはあまり見たことがなかったです。
そういえば、作品は始終卵を軸にした言葉が出てきますが、人が己の「殻」を破るという過程を見事に示している作品、ともいえますね。
寺田克也さんのイラストもすごく好きなので、色々な意味でツボにハマる作品でした!終わるのは寂しいですが、いい終わり方でした。良い作品に出会えて嬉しい。
マルドゥックシリーズほかにもあるので、また読んでみようかなと。
ただ、最近沖方信者のような連続レビューになってしまっているのと、推理小説が恋しくなってきたので、次のレビューはそのへんになるかと思います!