トモロコシ畑

油絵を使って動物を描いています。創作活動のご報告、日常の雑記など。

ミステリ・ホラーとSFのマリアージュ…もあり!『年刊日本SF傑作選 プロジェクト:シャーロック』レビュー

 その年日本で発行されたSF短編の良作をまとめ、毎年刊行されている、東京創元社の年刊SF傑作選。2013年から毎年買い続けてはや5冊目。SFならではの懐の深さで多様な作品が並び、大変おもしろく、毎年本当に楽しみにしています。漫画も載ってます!

 今回は、〈SFマガジン〉掲載の収録作が一編のみだということで。他は文芸誌や同人誌からの収録とのことで、よりSFが人口に膾炙していることが伺え、そこまでがつがつではないにしろ、SFの読者としては嬉しい限り。

 今作は全17編。幾つか印象的なものをピックアップし、ネタバレしない程度に語ってみます。

 

目次 

 

上田早夕里『ルーシィ、月、星、太陽』

 人類が滅びた後の世界に生きる、新種の海洋生物の冒険譚話。コミュニケーション手段、身体の構造、生殖手段もヒトと違いながらも、読者に即した語り口でその生物の在り方を理解しつつ、物語へ導く。静寂に包まれた雰囲気が神秘的で美しい。

我孫子武丸『プロジェクト:シャーロック』

 ある警察官が考案した、犯罪を解決するためのAI「シャーロック」。オープンソースで公開すると、世界各国の知が集結し、より高度化。実際の操作にも使えるようになった。しかし、そんな中、シャーロックの考案者が殺害され……。という粗筋。

 見事なオチに鳥肌が立ちます。理論上、実現できそうな怖さもあり。絶妙。

彩瀬まる『山の同窓会』

 「女性が産卵する」という、ハイファンタジー。ハイファンタジーって世界特有の設定があって、それをどう読者に分からせるかが勝負だと思うのですが、この作品は大変それが巧く、ストーリーを追う中で自然とその世界の原理を理解でき、話に没入できました。

 産卵するたびに朽ちていく身体、でも主人公は一度も産卵しなくて……。主人公はその世界でどう生きるのか探っていきます。現代の独身女性はもちろん、広くヒトの生き方に通じるような展開はなんともいえずぐっときます。ノスタルジックな雰囲気も良い。

加藤元浩『鉱区A-11』

 漫画作品です。ある星に独り駐在し、仕事にあたっている人物が銃で撃たれて死んだ!? でも、ほかに人はおらず、星にいるAIたちも、ロボット三原則に乗っ取り人には危害を加えられなくて……。じゃあ犯人は一体?! そうです。ミステリなSFなんです。

 SF的ギミックを使いつつ、最後にはなんだかほっこりしてしまう。納得感もあり、大変完成度の高い作品でした。発想がすごいなぁ……。

小田雅久仁『髪渦』

 お金に困った女主人公。10年前お世話になった人から、1日10万のあやしいバイトを持ちかけられる。宗教団体の特別な儀式に出ろ、ですと? 大変あやしいけれども、背に腹は代えられぬ。と行った先で起こることは……。

 ……色々と怖いっす! ホラーなSFでした。

宮内悠介『ディレイ・エフェクト』

 東京にいきなり、1944年の過去の風景が、半透明で見えるようになった?! 主人公が暮らす家にも、曾祖母がいて、畳の部屋があって……声まで聞こえる。現在の東京と、戦前の東京が重なりあう中、主人公はその風景を見て様々な想いをはせながら日々を過ごし……という作品。

 宮内さんの作品は他にも読んだことがるけれども、発想の豊かさはもちろん、ストーリーテリングの巧さにも舌を巻きます……。今回も読ませる傑作。

総括

  タイトルにもある通り、今作はミステリやホラー等、他ジャンルとSFがミックスされたような作品も多く、SFの幅広さに感嘆いたしました!

 毎度書いているきがしますが、やっぱりSFを読むと、人の想像力は無限大であることを感じます。しかも、没入するほどに、全く別の世界に入り込めるので、読んだ後すっきりする笑。この本、通勤時間や昼休みにも読み、一日1編くらいの速度で進めていたのですが、昼休み10分のめりこむだけで、大変な気分転換になりました。お昼SF、オススメです!

 読書ペースはとろいですが、またSFも読んでいこうと思います!短編ばかりだから、そろそろ長編も読んでみようかなぁ。