トモロコシ畑

油絵を使って動物を描いています。創作活動のご報告、日常の雑記など。

人と組織を大切にするから、今がある『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』レビュー

 トヨタ、といえば、日本が世界に誇る自動車メーカーです。でも、ここまで辿り着いた背景には、現場の人々の地道な努力があってこそだったのです……。

 なんて、そんな逸話に触れる機会を、本から頂きました。

 中卒の現場上がりという、現トヨタ副社長を題材にしたノンフィクション作品、『トヨタ 現場の「オヤジ」たち』を読破。サクッと読める内容ながらも、日本のものづくりの熱い想い、そしてトヨタ生産方式の本質に触れられる、なかなか良い内容でした!

トヨタ 現場の「オヤジ」たち (新潮新書)

トヨタ 現場の「オヤジ」たち (新潮新書)

 

 目次!

 

どこまでも「人」を信じた、人間味溢れる現場

 作品は、さすがノンフィクション。独白のモノローグのような形式で、現場の生々しさが伝わります。スタートは、1937年のトヨタの創業期。そこから、いかにして現在のトヨタが生まれたのか、独白を中心に話が進みます。

 さて、頭の時代から常に流れているのは、「人」への信頼。

トヨタは教育熱心な会社で、人を育てる教育ばかりやるんです。なぜかと言えば、いいものを作る鍵は人にあるんです。いい設備もいるけど、設備だって操るのは人ですから。人を育てないと、いいものはできない。(p63)

 人を育てることこそが、いいものづくりに繋がる、と、トヨタOBは語ります。その気概が会社全体に浸透しているから、皆後輩を育てようとする。しかも、携帯電話もなく、クルマもお高い時代。コミュニケーションは、飲み会だったり、一緒にお風呂に入ったり……。そんな密着した付き合い。チームワークも醸成されるものです。

 その想いは、技術が進歩した今でも変わらないようです。

いつになってもやっぱり腕のいい職人が必要なんです。機械やロボットが勝手に自分で一番いいやり方を関G萎えて、技術を進歩させたわけじゃないんだ。手作業のラインで高いレベルの腕を持った人を育てるのが、トヨタの現場にとって必要なんですよ。(p182)

 

トヨタにもこんな時代があったんだ

 今だけみると、最初から巨大にみえるトヨタですが、当然最初はもっと小さい。OBの独白を切り取ると、「えっ、そんなこともやってたの?」という、なかなか衝撃的なこともあります。

当時の環境は最悪。先輩が扇風機に向かい、汗をだらだら流しながら、塩をなめて仕事をやってました。真っ赤になった棒材をかね(鉄)の箸でつかまえて、それをスタンプハンマーって、大きなハンマーで叩いたりして成形していました。(p27)

トヨタがいちばん苦しかったのは昭和25年(1950年)の朝鮮戦争の前でした。労働争議で人員整理があったときですよ。会社も金がなくて、給料が払えんから、鋳物で、アルミの鍋や釜を創って、それを給料代わりに従業員に配ったんです。私もアルミの鍋をもらって……。丈夫でいい鍋でしたから、まだ使ってます。行商もやりましたよ。金がないから、会社に行かずに鍋や釜を売って生活していました。(p38)

 こんなことを乗り越えてきたから、今のトヨタがあり、その乗り越えた実績があるからこそ、新しい時代にも立ち向かえるというわけですね。前者の引用は、鍛造という、当時最高にツライ現場の状況。今は生産ラインでの製造ですが、当時は本当に、まさに「職人技」、です。

 しかし鍋を売っていたとは……確かに相当長く使えそうですが!

 

トヨタ生産方式を成り立たせる鍵は、「人」「組織」にあった!

 トヨタ生産方式、名前だけでもご存じの方は多いのではないでしょうか。トヨタの高品質な大量生産を支えた、生産方式。

 これ単に生産方式の手法だけ踏襲すれば、それでいい感じもするんですが。そんなことはない。成り立たせるための土壌が必要で、本書を読む限りは、まず「人」「組織」ありきだな、と感じました。

トヨタ生産方式と言えば、カイゼンだと言われています。しかし、カイゼンの前にまず問題を顕在化する必要がある。そして、基準をつくって異常を管理する。(p110)

ただ、現場は自分のところで問題が顕在化するのは嫌なんだ。心理的にはつらい。だから、それとの戦いでもある。(p110)

 そう、現場の問題点をカイゼンして解消し、できるだけ早く、品質の担保された製品をお客様に届けていくのが基本ですが。

 問題点をカイゼンするには、それを発見する必要があり。

 さらに、発見した問題点を提起できる環境も必要。ふつうは、問題あります!っていったら、怒られますから。隠したくなりますよね。それが人間の心理……。それを乗り越えて、問題を提起したら、むしろほめられるような、そんな人間関係、組織がないと、これは成り立たないんです。

 問題が見つからない限り、カイゼンのしようがありませんから。

 さらに、問題をしっかり捕まえるには、「これは問題だ!」と気づく必要がある。気づくには、正しい現場の在り方という原理原則というモノサシがないと、異常に気付きません。だから、個人個人にその原理原則の浸透も必要、というわけです。

 

 私なりに図式化すると、こんな感じになるんじゃないかと。(なんだか仕事のプレゼン資料チックになってしまったがご愛敬^^;)

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 また、トヨタ生産方式~って学ぼうとすると、色々な本も巷に出ていて、要素がたくさんあるように見えるのですが。本書では、本質的な要素が1文で述べられていました。納得感……ありますね。

『ものは売れる速さで形を変えながら流れていく』。

形を変えないで流れていったって何の付加価値もない。売れるものを売れるスピードで1つずつつくる。我々は、材料を買って、車にして、お客さまに買っていただき、乗っていただくことで、初めてお金が戻ってくる。ですから、材料を買ったときから、いかに早く車にしてお客さまに買っていただくか。材料が製品、自動車になるまでの時間を『リードタイム』というのですが、それを短くする。付加価値を付けながら時間を短縮するのがトヨタ生産方式の考え方です(p106,107)

 

 

総括・今後の日本のものづくりは……

トヨタは創業から80年が経った。そして、自動車業界はもっともはげしい変化のなかにある。2017年末、社長、豊田章男はこんなメッセージを出した。

「『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている」(p178)

  EVや電気自動車の登場。そして、製造現場の自動化等、技術の進歩によりまさに今自動車業界は岐路に立っています。

 海外の製造業は、現場の自動化・機械化を日本以上に早く推進している例も多く、日本のものづくりが今度どう生きるべきか問われる時代となっています。

 日本のものづくりはや現場のカイゼンの力をベースに、これまで世界でも活躍できました。AIやロボティクスといった、ヒトの知能や技術を模すものが確立されつつある今、どうあるべきか……。トヨタも含め、多くの企業が戦っています。

 自分も、製造業相手の仕事をすることが多く、自分自身ものづくりの力になりたいと思っているので、引き続き考えていきたい、いやいかねば、と考えております。本書のような本を読むと、これまでの日本のものづくりの強さを支えたものが分かるので、日本を未来を切り開くためのひとつのInputにはなるように感じますね!

 

 読み物としてもおもしろかったです! ノンフィクションなので、全編批判精神なく書かれており、その点は場合によっては多少、差し引くべきかもしれませんが……。

 

 なお、冒頭に現副社長を題材にとありますが、メインの独白が現副社長・河合氏であり、ほかのOBの視点でも描かれています! あまり引用はしていませんが、現場と人を大変大切にしていたからこそ、副社長なんだなと大変感じます。河合氏のエピソードだけでも結構ぐっときますので、ご興味ある方は是非^^

 

 河合氏の最近のインタビューでも、現場・人への想いがわかりますね。

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