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智の素

ITコンサル兼絵描きの雑記。日記、世の中考察、本のレビュー、作品掲載など。

短編小説『稚魚人魚』

彼らをじっと見つめ、探る。白銀に光る彼らの小さな身体の合間に、別の何かがないだほうか、と。

いざ見つけると、僕の血は高揚し、意識する間も無く即座に彼のものを獲る。そして、彼を見つめる。

それは、紅い身体をしていたり、複雑にからまった不思議な形をしていたりする。

 

 

しらすの中に紛れた、タコやイカの稚魚探し。それが、僕の密やかな楽しみ。

まぁ、あまり集中していると、母にご飯が冷める、中学校に遅刻する、と怒られるのだが。

 

 

そんなある日見つけたのは、いままでみたことのないものだった。

身体の半分がヒト。もう半分が魚。

人魚、というべきなのか。

それが、しらすサイズで紛れていたのだ。

高揚していた気持ちは、いつのまにか混乱した。人魚?  現実なのかこれは。

 

深呼吸してから、今一度見つめる。

ゴマ一粒くらいのサイズの、ごく小さな瞳は閉じられていた。小さすぎてよく見えないが、美しい顔立ちをしていた。

 

どうしたものか。

いつもなら、鑑賞してからいただくのだが。

食べたら、人肉の味なのだろうか。それとも、魚のソレなのだろうか。

そんなどうでもいいことを思案してしまった。

 

食卓についた母も父も弟も、僕のいつもの行動とばかり意識せず、人魚らしき何かが居ることにも気づいていない。

「ほら、遅刻するわよ」いつもの調子の母。僕だけが不思議な世界に足を踏み入れている心地がした。

 

人魚をみつめ、どうしたものかと今一度考えつつ、遅刻するのもあまりよくないとやたら現実的な考えに思い当たり。人魚を横目にご飯を頬張る。ああ、しらすご飯はやはり、うまい。

 

先日学校で習った源氏物語をふと思い出した。

こんなとき、物語の世界なら、密かに人魚を育てて、嫁にしたりするだろうか。

 

とはいえ、女の子に興味がないわけでもないが、女の子とは別の次元に見える。

一人テーブルのうえで丸まり、目を閉じる姿は、こたつの脇で丸くなる子猫を彷彿とさせ、なんともいえない気持ちがした。

 

「ごちそうさま」

食器を片しつつ、コップに水を入れ人魚をそっと入れ、家を出るときに手に持った。

 

通学の途中。海の浅瀬。

コップの水を、人魚もろとも流した。

人魚は少し身じろぎしていたように見えた。起きていたのだろうか。でも、瞳を見たら僕の気持ちも変わりそうで、敢えて人魚のほうは見なかった。

水と人魚は海に流れ込み、泡のなかに消え去った。

 

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唐突に短編小説。

ネタとして長年あたためていたのですが、漫画にもイラストにもできず、悲鳴をあげていたので、出してみました。

小説は過去二度、短編を投稿したことがあるくらいですが、それ以外外に出したことがないのでレベルは不明笑

内容もあれですが、思うものがあればコメントいただけると嬉しいです!!!