ロボットとの哀愁がたまらなかった『日本SF傑作選アステロイド・ツリーの彼方へ』レビュー
ご無沙汰しておりました。今回は久しぶりに本のレビューです。
最近は仕事の本、データ分析やらUI・UXやら事業計画やら…の本を読むことが多く、フィクションに中々手を出せませんでした。
という中でも。SFとミステリはどうしても。
こう、だんだん禁断症状が出てきますね。
むしろ、仕事とか大変な現実から一時離れるため。そして、アタマを柔らかくし想像力を楽しく働かせるためのメンテナンスとして、読む必要がある。そんな気がします。
さて、今回は毎年恒例と化している、東京創元社刊、『日本SF傑作選アステロイド・ツリーの彼方へ』のレビューです。
アステロイド・ツリーの彼方へ (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)
- 作者: 大森望,日下三蔵
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/06/30
- メディア: 文庫
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毎年刊行されているシリーズで、年間の日本作家の作品を選定し、編集した短編集。様々な作家、ジャンルがまとまっていてとてもおもしろく、毎年楽しみにしているシリーズです。漫画まで入っています!その数、20編也。
今回もどれも非常におもしろかったのですが、個人的にはロボットと人間の交流を描いたものがキュンと…そうキュンときました(笑)『言葉は要らない』、『アステロイド・ツリーの彼方へ』が該当でしょうか。
あとは、これはやられたーと感じになったのは『聖なる自動販売機の冒険』、『インタビュウ』、『法則』、『吉田同名』。
個別に一言ずつ、コメントを。がっつりネタバレにならないようにはします。が、コメントの関係上多少触れることはご勘弁を。。。
- 藤井太洋『ヴァンテアン』
遺伝子工学の女性研究員、田奈橋とそれに振り回される主人公の話。
科学ネタがいい塩梅に入り説得力がある。田奈橋の自由な発想が素敵。 - 高野史緒『子ねずみと童貞を復活した女』
ドストエフスキー『白痴』やダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』等
古典から着想された作品。具体的な描写がありつつも、ふわふわ夢の中にいるかのような展開は、ドフトエフスキーを彷彿とする。読むというか、感じてその結果読む、ような小説だと思います。 - 上遠野浩平『製造人間は頭が固い』
上遠野作品に出てくる「合成人間」の逸話。作品を読んでいなくてももちろん楽しめます。なんとなくありそうな不気味は雰囲気で、世界の裏側を感じます。 - 宮内悠介『法則』
ミステリーを書く上での原則に従って生きる主人公の話。うーん。この話のもってきかた、秀逸です。主人公が原則を理解した上で動くのがメタでおもしろい。 - 坂永雄一『無人の船で発見された手記』
タイトルの通り。手記。主人公は人間以前の動物。神話めいた雰囲気。そう、神話に入ったかの心地がします。 - 森見登美彦『聖なる自動販売機の冒険』
向かいのビルにあったはずの自動販売機が、主人公のビルになぜか居て…という話。珍妙なんだけど、妙な落ち着きがある。それがイイ。 - 速水螺旋人『ラクーンドッグ・フリート』
漫画作品。人間の宇宙飛行士と、タヌキのクルーが地球を目指して旅をする!
絵柄に温かみがあり、ファンタジックな趣もあって楽しい! - 飛浩隆『La Poesie Sauvage』
人工知能が詩を詩作しているときの内部状態を、グラフィックで表現する仕組み。それが暴走し…という話。この、内部状態を表現っていう発想が非常におもしろい。ありそうですもん。
現代の技術でいうとProcessingとか、D3も似ているけど、そのプログラムの過程を表す…みたいな。 - 高井信『神々のビリヤード』
タイトル通りです。「何を」ビリヤードしているのかは読んでみてのお楽しみ。短いですが、なんとなく納得しちゃいます。 - 円城塔『〈ゲンジ物語〉の作者、〈マツダイラ・サダノブ〉』
〈〉の部分を変数的に利用し、関係性を構造化した場合に源氏物語はどう表現されるのか…という話。プログラムかじったことのある人なら、やたら納得できそう。小説の在り方としてはアリですね読みにくいけど。 - 野崎まど『インタビュウ』
作家のインタビュー記事の体だが、記事そのものが架空というなんともすんごい発想の作品。これ…好きです。笑 最後のオチがちょっと不気味。じゃあこの作者は… - 伴名練『なめらかな世界と、その敵』
あり得るかもしれない未来を誰もが垣間見れる世界で、その能力を持たない人間がいて…という作品。実際そんな能力あったら、恣意的な行動が増えて大変なことになりそうだな。。。 - ユエミチタカ『となりのヴィーナス』
漫画作品。自分探しがテーマ…といいつつ、SF要素もしっかりと。甘酸っぱい。そして女の子可愛い。 - 林譲治『ある欠陥物件に関する関係者への聞き取り調査』
タイトル通りの内容。始終対話形式。どっかで聞いたことあるような話が展開されますが、オチでフフッとなります。 - 西島伝法『橡』
西島作品は、言葉の選び方が独特だからか、ページ全体を見渡した時に西島作品独特の匂いを感じます。今回もそんな感じ。。幽霊達の話です。 - 梶尾真治『たゆたいライトニング』
人類のすべての歴史の記憶をもつエマノンと、エマノンが生きる中でたびたび出会うヒカリという女性の話。時空を超えた孤独と友愛が描かれ、しんみりします。 - 北野勇作『ほぼ百字小説』
作者がTwitterで展開した作品を集めたもの。100字程度だとアイデアが中心になってオチまではいけませんが、それゆえ妄想が膨らみなんだかおもしろい。 - 管浩江『言葉は要らない』
ずっとロボット研究ばかりやってきた研究者と、その助手の話。人間ドラマにぐっときますが、あわせて人とロボットの在り方、いい関係性を築くこと…未来に向けて、考えないといけないテーマだなと感じました。 - 上田早夕里『アステロイド・ツリーの彼方へ』
猫のロボットと主人公の話。猫のロボットとの楽しい日常生活、でも猫のロボットには秘密が…。切ない話です。
2,3ページで終わる作品もあるので、
SF気になっているが読めてない!読めない!という方でも楽しみやすいかと。
上記のとおり、SFとはいっても、メタなもの、哲学的なもの、文学的なもの様々なのですが。その懐の深さがSFの魅力かと。
ちなみに昨年のレビューはこちらになりますー。ご興味があればあわせてどうぞ。