トモロコシ畑

油絵を使って動物を描いています。創作活動のご報告、日常の雑記など。

概念さえも突き崩す、奔放なSF短編集『あまたの星、宝冠のごとく』レビュー

短編集は、通勤時間を使って1日1、2編ずつ読んでいくケースが多く、

多くは1週間程度で読み切るのですが。

これは違った。

非常に歯応えのある短編集でした。

 

あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF)

あまたの星、宝冠のごとく (ハヤカワ文庫SF)

 

 知る人ぞ知る作家ですが、自分は初読。

書籍タイトルと書籍裏面の解説に惹かれて読んでみました。

 

綺麗そうな見た目と裏腹に、

1編1編が確固たる世界観にかためられ、我々の概念を覆し、生・死というものを問いただすような、根源的なパワーに満ち溢れていました。

エンタメというよりは、哲学書に近いような印象さえ受けます。

1編ずつ印象に残った点を書いていきます。

いつもの如くネタバレ防止で折りたたみます

 ■アングリ降臨 (好き度★★★)

火星人の形状としてよく想像しがちな「タコ型」の宇宙人「アングリ」が、地球に来訪するという話。訳の雰囲気も相まって絵本の如し。

読みやすいし、全然違う世界に生きてきたアングリと、ヒトの交流が、リアリティをもって描かれます。結構すんなり読める。

若干キリスト教的な部分があったり、最後のドンデン返しがあるところがまたピリリと効いていて、多くの方にオススメできる秀作です。

 

■悪魔、天国へいく (好き度★★☆)

地獄在住の魔王が、天国を訪問する話。

魔王なのにお弁当があったり、細かい描写が可愛らしいです!

ただ、最初は結構わくわく読んでいたものの、天国までの道中の描写が少しマンネリ化した印象が否めず、途中から飽きてきてしまいました。。。ウーン。。。

 

■肉 (好き度★★★)

子供を育てる余裕のない少女が、養子斡旋施設に子供を持ち込む話。

ただ、それと並行して走る、運び屋の小話もあります。

随所で物語の環境、子供の状況、養子の在り方に触れられているのですが、肝心な「少女が運び込んだ子供」の顛末が明確に書かれていません。

が、想像できる材料は多分にあり……。

はっきりいってダークな話。でも、未来こうならないとも言い切れない、そんなリアリティが絶妙。色々と考えさせられました。

 

■すべてこの世も天国も (好き度★☆)

エコロジア=ベラという架空の国の王女の、結婚話。

エコロジア=ベラの世界設定は緻密で、それこそ絵本を読んでいる心地はしましたが、

途中ちょっと中だるみが…(短編に中だるみも…っていうきもしますが)

最後のドンデン返しはなかなか良かったです!

 

■ヤンキー・ドゥードゥル (好き度★★☆)

戦時中に薬物中毒になった男が、薬物治療のため施設に入る話。

治療の過程の表現が非常にリアルで生生しく、読んでてツライが楽しめました。

これもまた最後の最後で…なんですが、この最後に何かあるところがまたイイですよね。

 

■いっしょに生きよう (好き度★★★)

これは、たしかハヤカワ年間SF傑作選で既読でございました。

ある惑星での、ヒトと宇宙人の交流を描いた話。

独特のコミュニケーションの仕方、交流の仕方が、既成概念に縛られず描かれていておもしろい。その対話の内容も実にリアル。

ヒトと宇宙人の関係性もユニークで、しっかりまとまった良作です。

他人になにか勧めるとしたら、この作品かアングリ降臨かな。

 

■昨夜も今夜も、また明日の夜も (好き度★☆☆)

夜のまちで女をひっかける男の話。まぁひっかけるといっても一癖ある意味があるのですが。

超短編で多くは描かれていませんが、背景をうかがう材料はあり。

あともう1,2場面ほしかったかも…ほかが濃厚すぎるので猶更。

 

■もどれ、過去へもどれ (好き度★★★)

過去の自分と、一定時間体が入れ替わる、ただし戻ってきても入れ替わっていた間の記憶は失われる…という、特殊なタイムスリップの話。

この設定からしておもしろいのですが、その顛末が非常におもしろい。

タイムスリップするのは少年少女。学校の美女と、ニキビ顔でいじめられっ子の男の子という、見事に接点のない2人が…タイムスリップしたら結婚していた?!

もうここからウマイですよね!

ただ、そのままエンタメ的に盛り上がるだけでないのがこの作家のすごいところ。

最後の最後は、人生やら運命やらについて考えさせられました。

 

■地球は蛇のごとくあらたに (好き度★★★)

地球が私の愛する人!と思い込む少女の話。ええ、地球さんではなくて、地球そのものです。

地面に生えているキノコを、地球の男性器に見立てるとかもう狂気の沙汰としか思えません。かなりイタイ。でも、それがもうほんと徹底されていて、地球にほんとに恋しちゃっている描写がもうイタイを通り越して感嘆してしまう領域に達しています。

ええっ、こうなっちゃうの?という展開の数々。

ユニークな作品でございますね…。

 

■死のさなかにも生きてあり (好き度★★☆)

一度死んだ男が、死後の世界で生きていく話。(こうかくと矛盾しているな…)

死後の世界のひとつの解釈がここにあります。

人の記憶や死について考えさせられます。

 

かなり主観的で簡単ですが、このような感じです。

本書は、多くのSFのレビューを書かれている冬木さんのブログでも紹介されています。

より深く具体的なレビューを読めますので、ぜひ。

huyukiitoichi.hatenadiary.jp

人間の想像力ってすごいな…と改めて実感した作品でした!

やっぱりSFは良いな。

 

 

あ、そだ、

レビューと関係ないですが、HNをマイナーチェンジして、真田トモロにしようと思います。突然ですが~。