トモロコシ畑

油絵を使って動物を描いています。創作活動のご報告、日常の雑記など。

クールな女探偵の謎と麻薬に満ちた旅『探偵は壊れた街で』レビュー

ここのとこマルドゥック越しでしたが、今回は翻訳ミステリのレビュー。

マルドゥックというか冲方さんの件については驚きで思うとこあるのですが、今回はちょっと置いといて…(tiwtterに任せて…)

 

今回読んだのはアメリカを舞台に謎を追う女探偵の話。クールな女探偵と、ニューオーリンズの臭いと、探偵が追う謎の本質が絡み合った、なかなかに濃厚な作品でした。

探偵は壊れた街で (創元推理文庫)

探偵は壊れた街で (創元推理文庫)

 

 こう貼り付けると表紙かっこいいな(´▽`)

いつも通りネタバレ防止で折りたたみます。

洪水の被害に遭ったニューオーリンズにて、被害者の甥にあたる青年の依頼で被害者が死んだ謎を追う女探偵・クレアの話です。主人公は勿論彼女なのですが、まぁ感情描写が少ない。直截的な表現で、登場人物の動きだけが淡々と描写され、シーンが進んでいきます。

一方で随所に挿入される、クレアの観る何かを暗示するかのような夢と、クレアの愛読書『探知』が語る謎というものの本質。それらの結びつきが明示されることなく、シーンと絡み合って深みを醸していました。

なんか結構クレアさん麻薬めっちゃ吸っててすごかったわ……ハードボイルドだ。

 

 

ニューオーリンズの描写は、人が死んでも普通だとかなんとか結構暗惨たる感じではあったのですが、結構好き。

アメリカには実は私自身行ったことはないのですが、ベルリンの郊外を歩いた時とかにも感じる、得も知れぬ雰囲気というか、危険というか、そういうものが色濃く出ていました。直截的な表現と相まって、クレアと共にニューオーリンズの空気を吸っているかのよう。

話はそれますが、アメリカを舞台にした作品って往々にして空気の描写がうまいように思うので、こういう作品を手に、実際にその舞台の場所を旅しながら読みたいものですね。

 

 

で本の中身に話をもどして。

ストーリーの流れは若干中だるみはしたものの、そこそこシンプルかつ最後にはいい感じの驚きもありました。

とはいえ実はそれ以上に、ミステリの常套句である「謎」の本質的な部分をつくとか、結構考えさせられる部分が多くて、ストーリーの流れそっちのけで気を引かれたりしてしまいました(^^;

登場人物もアンドレイとか結構好きなのですが、クレアさんが強すぎてもってかれました!

 

かっこいい女探偵とニューオーリンズを散策したい方にはお勧めの一品でございます。

 

 

最後に、個人的に結構刺さった引用をひとつ。

”偶然はない”シレットは書いている。”解決されなかった謎と、気づかれなかった手がかりがあるだけだ。たいていの人間は、たまたま聞いた鳥の声、道すがらの葉、溝に刻まれた蓄音機の記録、見知らぬ電話発信者に対して盲目だ。人は予兆を観ない。徴の読み方を知らない。

 そういう人にとっては、人生は空白ページばかりの本だ。だが探偵にとっては、謎で描かれた彩色写本だ”

何故、今日は早く目覚めたのだろう。何故、目の前を歩く人は急いでいるのだろう。すべてのものに意味があり、それを謎として定義し、理由を求めるのならば謎というものは尽きない。

いつも謎を考えるのは辛いかもしれない。終わりも答えもないから。でも、その道の途中で素敵なものを見つけるものもあるように思います。他人の感情とか、創作のネタ、とかね。

謎を見つけるのかは自分次第。どうとらえるのかも自分次第。でも、世界の捉え方ひとつで、こんなにも人生は豊かになる。たとえ辛いときがあったとしても。